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京都地方裁判所 昭和42年(ワ)425号 判決 1968年2月23日

判   決

原告

竹島清三こと

申基祐

右代理人

栗林五一郎

被告

慶本哲住こと

李哲住

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し、金一〇万円およびこれに対する昭和四二年四月二九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決と仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

一、原告は昭和三八年七月二日、被告との間に、その所有の別紙物件目録記載の建物(本件建物)を代金八七万円で買受ける契約を締結し、同日、被告に対し、右代金全額を支払い、同月一五日、被告より、本件建物の引渡を受けた。

二、原告は、その後、被告に対し、たびたび、本件建物の所有権移転登記手続をすることを求めたが、被告は、これに応じなかつた。

三、そこで、原告は、弁護士栗林五一郎に訴訟代理を委任し、昭和四〇年五月一〇日、右京簡易裁判所に、被告に対する本件建物所有権移転登記手続訴訟(同庁昭和四〇年(ハ)第一五号事件)を提起した。

四、昭和四〇年五月三一日の右事件の第一回口頭弁論期日において、原告代理人奥林弁護士の訴状陳述に対し、被告は、原告主張の請求原因事実を認めたので、同日、弁論終結となり、同年六月一四日、「被告は原告に対し本件建物につき昭和三八年七月二日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決が言渡され、控訴期間経過とともに、右判決は確定した。

五、原告は、栗林弁護士に対し、右訴訟事件の着手金として、同年五月六日、六月九日に各金二万円、七月五日に金一万円、報酬として、同年一二月二〇日に金五万円を支払つた。

六、京都弁護士会の報酬規程によると、着手金は受任当時の価格の五分以上一割五分以内、報酬は事件解決当時の価格の一割以上三割以下と定められているから、前記着手金は右規程の最低額に近く、前記報酬は右規程の最低額にも達しない。

七、被告が、本件建物売買契約に基く所有権移転登記手続をなすべき義務を否定し、不当に抗争したため、即ち、被告の不法行為により、原告は、栗林弁護士に対する前記支払金一〇万円の損害を受けた。

八、よつて、原告は、被告に対し、右金一〇万円およびこれに対する訴状送違の日の翌日である昭和四二年四月二九日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

九、被告主張の二事実は争う。」

と述べた。

被告は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

「一、原告主張の事実中、一ないし四の事実は認めるが、その余の事実は争う。

二、本件建物の近隣の者が、本件建物の道の向い側にある約二〇坪の空地(訴外西村所有)を、通路、物干場、子供の遊び場として使用していたところ、原告が、右空地に建物を不法に建築したので、被告は、近隣の者、土地所有者より苦情を受けた。そこで、被告は、原告に右建物の撤去を求め、本件建物所有権移転登記手続をすることを拒否していたのである。」

と述べた。

証拠<省略>

理由

原告主張の事実中一ないし四の事実は被告の認めるところである。

不動産買売契約を締結し、代金を受領した売主が所有権移転登記手続をする義務を否定し、そのため、買主が、弁護士に訴訟代理を委任し、訴を提起した場合、売主の売買契約に基く義務否定の行為は、不法行為を構成するに足る違法性がなく、訴の提起そのものによる出費(弁護士費用)を含むは、売主の不法行為に因る損害として、その賠償を求めえないと解するのが相当である。

右の場合、買主の訴提起後に、売主が、故意もしくは過失はよつて、不当に契約に基く債務を争い、そのため、訴訟の解決が延び、買主が、余分の手数を煩わされ、これについて余分の出費を余儀なくされるとき、そのような出費で訴訟法に定めるもののほかのものは、売主の不当抗争という不法行為に因る損害として、その賠償を求めうると解するのが相当である。

本件についてこれをみるに、被告は、所有権移転登記手続請求事件第一回口頭弁論期日において、原告主張事実を認めたのであるから、右不当抗争による不法行為は成立しない。

よつて、原告の本訴請求を失当として棄却し、民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。(小西 勝)

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